QT延長症候群
致死性不整脈という響きから恐怖を感じたり、正常化バイアスで「自分は大丈夫」と思ったりするこの病気について、私が得てきた情報をもとに素人ながらに解説してみます。(誤りがありましたらご教示をお願いします)
日常生活においては、心臓の動きに異常があるということは、患者本人も周囲も全く分かりません。色が白い、痩せている、運動が苦手そう、等、病弱な人というと思い描くイメージがあるかもしれませんが、QT延長症候群以外の疾病がない場合、一部の耳の聞こえに影響がある型以外、こうしたイメージには当てはまりません。
QT延長症候群が見つかるのは、胎児期や乳幼児期には脈泊数が少ない徐脈が診られた時。小中学校では入学時の健康診査の時。他には何かのきっかけでめまいや失神が見られたり受診したりした時。
こうした時に受ける心電図検査で、心臓の「ド」から「くん」の終わりまでが長いことから、「QT延長症候群かも?」ということになります。
心電図には、P波~T波、又はU波という「波」がいくつか見られます。この中にあるQ波~T波(U波がくっついているT波もあります)が延長している特徴から「QT延長症候群」という名前が付いています。
では、なぜそのようなことが起きるのか?
先ず、血液を全身に送るポンプの役割を持つ心臓は、電気で動いています。電極を貼ることで心臓の動きが分かったり、心臓がけいれんを起こした時にAEDで電気ショックを与えると正しい動きを取り戻すことがあるのは、心臓が電気で動いているからです。
では、心臓の筋肉を動かす電気の発電機は?
食べ物の栄養成分表示には「カリウム」「カルシウム」「ナトリウム」といった表示がされています。このミネラルは、マイナスイオン、プラスイオン、という電気信号の素を持っています。心臓の筋肉は、ミネラルという微細な物質を細胞が取り込んだり出したりすることで生じる電気信号で動きます。ということは、体のミネラルバランスが整っていなかったり、細胞のミネラルの出し入れに問題が生じていたりすると、心臓は正しく動きません。
さて、ミネラルの出し入れを行う細胞にはたんぱく質のアミノ酸でできた膜があります。この細胞の設計図が遺伝子。
例えば、家の設計図で、本当は強化ガラスで作るはずの窓の材料が「プラスティック」となっていたら、少し不具合が出るかもしれません。けれどその家がどのような気候の地域にあるのか、どんな大きさなのか、その家のどこの窓が間違えてしまったのか、またその日のその時の天候や気温といった条件によっても、プラスティックの窓でも生活に問題が生じないこともあるでしょうし、大いなる問題が生じることもありますよね。
先天性QT延長症候群は、細胞の設計図が間違えています。そのため、常に心臓の細胞ではミネラルの出し入れに問題が生じています。それでも日常は「ドっくん」の動きを繰り返してポンプの役目を果たしていますが、時々その問題が大きく影響して、心臓が正しい「ドっくん」を繰り返すことができなくなり、めまいや失神を引き起こします。QT延長症候群の疑いにより遺伝子検査をすることで設計図の間違いを見つけ、心臓の動きに影響を受けやすい条件や、影響を受けた時の変化等がある程度は絞り込めます。但し絞り込める内容も程度でしかなく、型からみる症状や有効な治療方法、生命予後が皆同じとは限らないのですが。作りかえることはできないけれど、考えられる影響や変化等から対処策を講じる。これがQT延長症候群の「治療」となります。
治療においてβ遮断薬を用いるのは、QT延長症候群が交感神経の興奮をきっかけに、トルサード・ド・ポワンツという頻脈による心臓の正常ではない動きをするからだそうです。この興奮を伝えにくくするのがβ遮断薬ということです。(違うようでしたらご指摘お願いします)。一方でβ遮断薬での治療の他に、カルシウムやナトリウムの出し入れを調整したり、カリウムの量を多くさせたりする薬剤を用いることもあります。
では治療は確立されているね、と思われるかもしれませんが、実はβ遮断薬は徐脈になることがあります。そして徐脈により更にQTが延長してしまう場合もあります。設計図と個人の体質や生活環境によって重症度も異なり、治療はいくつもの方法があり、万人に共通する「これ!」という治療が確立されていません。
見た目は普通。
心電図を診たら異常があり、心臓が正しくはない激しい動きをすることにより血流が止まってしまいめまいや失神を起こしたり、心臓の激しい動きが長く続けば心臓が疲れ切って動けなくなり命を落としてしまったりする。
それがQT延長症候群です。